2006年06月27日

数学に対する偏見は国益を損ないます

 ややこしい話ばっかりだとつまらないので,ちょっと今日は趣を変えてみよう。

(Jun/13/06 朝日新聞社説より引用開始)
【数学の力 先細りさせないために】
 「忘れられた科学」と題されたシンポジウムが開かれた。何かと思えば,数学である。
 エレベーターの制御から通信,暗号,さらには金融まで社会のあらゆる分野で,数学は重要な役割を果たしている。すべての科学の基礎でもある。政府がめざす「科学技術創造立国」の基盤だ。
 ところが,その基盤の層が薄く,研究実績にもかげりが見えてきたというのだ。このままでは先細りになって,本当に忘れられてしまいかねない。
 数学はこれまで日本の得意な分野だった。純粋数学では世界的な学者が輩出し,数学界で最高の賞であるフィールズ賞は小平邦彦,広中平祐,森重文の3氏が受賞した。受賞者は全員で45人だから,欧米に引けを取らなかった。
 しかし,文部科学省の科学技術政策研究所によると,日本の数学の研究論文数は00年に中国に抜かれ,今や世界第6位である。科学の全分野では米国に次ぐ2位だから,数学は活発とはいえない。
 とりわけ,統計学などの応用分野が弱い。数学的な方法をさまざまな分野に生かすことに立ち遅れているのだ。
 同研究所のアンケートでは,バイオや新材料,情報通信などの研究者の多くが「研究チームに数学の素養を持つ人がほしい」と訴えている。そうした人が欧米のライバルチームにはいるので,差がついてしまうということのようだ。
 企業からも「数学の専門家が少なく,将来が心配だ」という声が出ている。たとえば,半導体メーカーでは,回路の設計から誤差を精密にコントロールする製造現場まで,数学が欠かせない。
 医療の世界でも,治療法の効果を調べる大規模な臨床試験では,統計学が必要だ。日本は,医療統計学と呼ばれる分野の研究者が欧米より格段に少なく,日本の医療の弱みとなっている。
 社会や企業で数学を求める声が大きくなるのとは裏腹に,この数年,科学研究費全体の中で,数学の占める割合は小さくなっている。目に見える成果を求めて重点的に投資するやり方に,地味な数学ははじき飛ばされてしまった。この間に米国やドイツは数学の研究予算を増やして強化を図っている。
 数学の理論は,何十年もたってから応用の道が開ける場合も多い。木の幹にあたる基礎的な研究をしっかりと育てる必要がある。同時に,さまざまな応用分野へ枝を伸ばす数学者を育てることも大切だ。
 数学者はこれまで自分の専門に閉じこもりがちだった。生物学や工学などの他の分野に目を向け,積極的に進出した方がいい。それが数学そのものを鍛えることにもなる。数学者があちこちで活躍できることも見せてもらいたい。
 数学の力や魅力が社会に伝われば,算数を好きになる子供たちも増えるだろう。それは長い目で見れば,数学のすそ野を大きく広げ,人材を厚くすることにつながる。
(引用終了)

 理学部数学科で確率論を専攻していた僕から言わせれば「ようやく数学の重要性がわかったかね」。数学科の教授たちにも責任はありますが,これまで社会的に数学という学問について偏見がきつすぎましたね。僕も当時,大学外の先輩に「そんな役に立たないものを勉強してどうするの?」と言われた事を思い出します。内心では「大事な事(本質)がわかっちゃいないねえ」と思っていましたが,まあほとんどの人の数学観はこのようなものでした。おそらくこんな社説が出るぐらいだから今もあんまり変わらないんでしょうけど。中学・高校で必修で学ぶ「受験数学」と大学からの「純粋数学」を同じに考えている人が大半ですから,無理もない話です。

 詳しく言うと,「受験数学」で点が採れなくて”数学という科目”に興味を失った人達が,「純粋数学」の重要性や神秘性に気付かないまま大人になっちゃっている人が多いということです。かく言う僕は「受験数学」が大好きでその延長として「純粋数学」も好きになった口ですが,一方で「受験数学」で点を採れた人が大学で「純粋数学」に触れて,あまりの理論の厳格さや数学界の閉鎖性に辟易したという人も理系の人間でたくさんいます。

 誤解しないでいただきたいのは,それがイケナイと言いたいわけではないということ。数学界の閉鎖性は僕自身が感じていたので至極ごもっともであり,それについては単純に純粋数学(大学で学ぶ数学)の素晴らしさをアピールできなかった数学界の力不足こそ批判されるべきことでしょう。かえって,科学技術の最先端を引っ張っていらっしゃる現場の科学者が,数学の上澄みの部分(証明済みの定理)を上手に応用させて,世界に誇れる日本の技術を確立したということは非常に素晴らしい事だと思います。

 しかし,やはり残念なのは,こうして応用分野のみが先行して,その応用技術を支える基礎となる純粋数学の衰退が目立つということです。世界に誇る科学技術の振興こそが日本の国益であり,日本が独立国として残っていくには欠かせないものだと僕は思っていますが,基礎のない上澄みだけの技術では早晩行き詰まることが予想されます。基礎部分をおろそかにしては朝日の社説のとおり他国に後れを取る事だって今後ありうることです。なんとかせねばなりません。

 どうすれば良いかについては,てっとり早い方法があります。数学科の教授やら大学院生に,技術系企業やエリート高校や各種シンクタンクなどへ研究成果の発表を定期的にさせれば良い。企業などからもらう評価に応じて研究費予算が決定されるようになれば,研究にも身が入ります。学会の閉鎖性も改善されるし,地味だったり変人だったりする教授たちも社交性が出てくるでしょう。

 もちろん実用につながる研究なんてわずかしかないでしょうし,そんなに簡単に研究成果が理論として大成するわけではないので,企業らの側からしてもらう評価の方法は考えねばなりません。その研究の「本質」は何なのか?その本質はイノベーションを誘発し得るのか?現在企業らが研究している分野に応用ないしヒントを与えるような理論なのか?そのようなわずかな可能性を見抜けるかどうか(そもそも的外れということもありうる)は企業らの問題となりますが,5社ほどで研究発表すれば何かと得るものはお互いにあるとは思います。

 象牙の塔に引きこもりがちな社交性のない学者も「国益」について考えねばならない良いきっかけになるでしょう。そもそもヘンな学者が多い(実際に理学部数学科にいた人間の言葉です)のも事実なので,積極的に殻を破って飛び出さざるを得ない環境に置かせるのは一番手っ取り早い方法だと思います。ま,中には,変人であるがゆえに世紀の大発見大研究を成し遂げる人達もいるにはいますがね・・・。
posted by 時をかける僧侶 at 20:31| 兵庫 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 社説批評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by エッチチャット at 2010年11月14日 00:13
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